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福岡地方裁判所大牟田支部 昭和44年(ワ)146号 判決 1972年9月06日

原告 森本譲

右訴訟代理人弁護士 田中光士

被告 株式会社三照

右代表者代表取締役 諸岡輝雄

右訴訟代理人弁護士 竹中一太郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、昭和四三年八月二六日午後三時四〇分ごろ、原告が原告車を運転し大牟田市明治町二丁目三四番地先にある横断歩道手前で停車したところ、後方から進行して来た訴外佐藤運転の被告車が原告車の後部に追突したことは当事者間に争いはない。≪証拠省略≫によればその追突の状況は、訴外佐藤は約一三メートル前方に停車しようとしている原告車を認め軽く制動し、停車した原告車の後方二メートルに接近し衝突の危険を感じ強く制動したところ、被告車の左前部旗立て金具が原告車の後部フェンダーに軽く追突し、被告車は追突地点に停車し、原告車の後部ナンバープレートが曲り、原告車は一メートル前方に押出されたが原告は転倒するには至らなかったことが認められる。

二、≪証拠省略≫によれば、原告の傷害は項部捻挫傷で、胸椎の圧痛、頸椎後屈の困難性、後頭部から背部、項部、頸部の疼痛の愁訴があったが、胸椎、脳神経に異常はなく、その程度は軽症であった。原告は野口外科医院に三日間通院し、次で中島外科医院に昭和四三年八月二九日から分院し同年一二月一二日退院し症状は軽癒したことが認められる。

≪証拠省略≫によれば、原告には第五頸椎の軽度の変形による後遺症として頭重、頭痛、眩暈、上肢および指の違和感等の脳神経症状があるが、第五頸椎の軽度の変形は先天的なものであって、本件事故により発生したものではなく、前記後遺症と本件事故とは相当因果関係が認められない。また、原告には第五頸椎に前従靱帯の石灰化があるが、これと本件事故との相当因果関係を認めることはできない。

従って佐藤外科医院で原告が受けた第五頸椎の軽度の変形による症状の治療は本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

三、≪証拠省略≫によれば、請求原因二の事実が認められる。

四、原告の損害のうち前記認定のとおり中島外科医院を退院した昭和四三年一二月までの分が本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(一)  逸失利益 八万八三八三円

≪証拠省略≫ならびに前記認定事実によれば、次の事実が認められる。

(イ)  給与減収分(昭和四三年八月二八日から同年一二月末日まで)六万五四〇三円

(ロ)  受給できなかった昭和四三年九月から同年一二月までの失業保険金(一日五〇〇円の一五日分)七五〇〇円

(ハ)  受給できなかった昭和四三年一二月分の政府増給措置金一万五四八〇円

(二)  慰籍料 五〇万円

原告が受けた傷害の程度、入院期間被告の損害填補の程度等を考慮すれば、原告の肉体的精神的苦痛を慰籍するには五〇万円が相当と認められる。

(三)  損害の填補 四六万五三二〇円

被告は原告に対し自賠責保険金三一万円を支払済であることは当事者間に争いはなく、その他に休業補償費および慰籍料として一五万五三二〇円を支払ったことを原告は明らかに争わないから、民事訴訟法一四〇条一項により右事実を自白したものとみなすべく、損害合計五八万八三八三円から填補額四六万五三二〇円を控除すれば一二万三〇六三円となる。

(四)  弁護士費用 二万円

原告が本件訴訟の追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、被告の抗争程度、前記認容額、証拠収集の難易等諸般の事情を考慮すれば、被告に請求し得る相当因果関係ある損害としての弁護士費用は二万円が相当と認められる。

(五)  被告が佐藤外科医院に原告の治療費として二四万六五五〇円を支払ったことを原告は明らかに争わないから、民事訴訟法一四〇条一項により右事実を自白したものとみなすべく、前記認定事実によれば、同医院における原告の治療は本件事故と相当因果関係のない治療であるから、右治療費は本来原告の負担すべきものであって、支払済の被告としては原告に対し右金額の不当利得返還請求権を有するものである。原告の損害賠償請求権と被告の不当利得返還請求権とは同一事故に基ずくものであるから、相殺を認めても何ら被害者の救済に欠けることはなく、自力救済禁止の趣旨に反するものでもないから民法五〇九条の適用はなく、右両請求権をもってする相殺は許されると解すべきである。従って原告が昭和四六年一〇月一三日の口頭弁論期日において相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著な事実であるから、原告の損害合計一四万三〇六三円と被告の不当利得債権二四万六五五〇円中その対等額とを相殺すれば、原告の損害額は零となる。

五、よって、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 河原畑亮一)

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